メニュー

便秘症について ~便秘症の合併症から治療法まで~

[2020.07.21]

目次

今回の院長コラムでは便秘症について解説します。たかが便秘で医者に相談するのも・・・という方もいらっしゃるかもしれませんが、便秘症でも油断はできません。便秘症の原因として大腸がんが隠れている場合や、便秘症で腸閉塞や腸管穿孔(腸に穴があくこと)をきたして重篤な状態になる場合もあります。また、便秘症で何日も排便がなくお腹が張って苦しいのもつらいものです。本コラムが便秘症の改善にお役立ちできれば幸いです。

便秘症とは

慢性便秘症ガイドライン(2017年)では便秘は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。

また、日本内科学会では「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」とされています。

排便の量、回数が少ないだけでなく、残便感があるというところも含めて便秘症とされています。

平成28年の国民生活基礎調査によれば、日本での便秘症の方の割合は男性2.5%、女性 4.6%でした。20~60 歳では圧倒的に女性が多いですが、60 歳以降は男女とも年齢とともに増えていき、80 歳以上では男女ともに10%を超え、男女差はなくなってきます。

便秘症の診断基準

慢性便秘症診療ガイドライン(2017年)では便秘症の診断基準は下記のように定められています。

◎「便秘症」の診断基準

以下の6項目のうち、2項目以上をみたすこと

a. 排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
b. 排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便である。
c. 排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
d. 排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある。
e. 排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など)。
f. 自発的な排便回数が、週に3回未満である。

診断基準を満たすと絶対に治療が必要で、満たさなければ治療が不要というわけではないですが、毎日排便がなくても、週に3回は排便があって、すっきり普通の便が出ているのであれば定義上は便秘症ではないということになります。

逆に毎日排便があっても残便感があったり、固い便が多いという方は便秘症ということになります。ただ、あまり診断基準にこだわりすぎず、各々の方の症状や排便状況に応じて治療を考えていくのが大事であると考えられます。

便秘症の分類

以前は、日本では便秘症は①器質性、②症候性、③薬剤性、④機能性に分類され、さらに機能性便秘症は、痙攣性、弛緩性、直腸性の3つに分類されていました。

慢性便秘症診療ガイドライン(2017年)では国際的に使用されている分類も勘案して下記のように分類されています。

症状からは下記のように分けられています。

  1. 排便回数減少型
  2. 排便困難型

また、病態からは下記のように分けられています。

  1. 大腸通過正常型:便秘型過敏性腸症候群など
  2. 大腸通過遅延型:特発性便秘症や便秘型過敏性腸症候群、薬剤性便秘症など
  3. 便排出障害型:直腸感覚低下や直腸収縮力低下、直腸瘤、巨大結腸、骨盤底筋協調運動障害など

*便秘の原因となる主な薬剤としては下記のような薬があります。

  • 麻薬系の痛み止め(モルヒネなど)
  • 咳止めの薬(コデインリン酸塩水和物など)
  • 抗コリン薬(気管支拡張薬など)
  • 抗ヒスタミン薬(アレルギーの治療薬など)、
  • 向精神病薬
  • 抗うつ薬
  • 抗パーキンソン病薬
  • 抗不整脈薬
  • 降圧薬(Ca拮抗薬)
  • 制酸薬
  • 鉄剤
  • 収れん薬(ビスマス製剤) など

便秘症の分類についての詳細は省かせていただきます。ただ、ひとつ重要なこととしては、一般的な便秘症かと思っていたら大腸がんによる狭窄(せまくなること)で便が通りにくくなっていたという場合もあります(右図は実際に大腸がんで狭窄をきたしていた例です)ので、長く続く便秘症には注意が必要です。細い便しかでていない、血便がでることがある、体重が減ってきているなどといった症状もある場合は要注意です。

便秘症の症状

便秘症の症状としては下記のようなものがあります。

  • 何日も排便がない
  • 便が溜まっている感じはあるが、いきんでも便が出ない
  • 下剤を飲まないと便が出ない
  • お腹が張って苦しい
  • お腹の痛みがある
  • 便がでてもまだ残っている感じがある(残便感がある)
  • 便が硬かったり、小さなコロコロの便が出る
  • 吐き気がある
  • 食欲がない

また、便秘症があると下記のような症状を引き起こすことがあります。

・お腹の張り、痛み
便秘症になると、たまった便や、便秘がたまっていることに伴うガスの発生・貯留によってお腹が張ったり、痛みがでることがあります。

・おならが多い、臭い
もともと、おならは水素や酸素・二酸化炭素・メタンなど臭いのないガスで構成されています。
便秘症によって腸内環境のバランスが乱れると、硫化水素・アンモニアなどにおいの強いガスが多く発生してしまいます。
そのため、「おならがたくさん出る」「においが臭い」といった症状が出てしまいます。

・食欲の低下
便秘症で腸内に便がたくさん詰まっていると、新しい食べ物を腸に送り込みにくくなります。そのため、食欲の低下や場合によっては吐き気などを引き起こすこともあります。

・肌荒れ、吹き出物
肌と腸は密接な関係にあり、腸内環境が乱れて腸の中に腸内腐敗物がたまると、体内に吸収され肌にまで運ばれてしまいます。また肌の生まれ変わりの周期が乱れることが肌荒れの原因となってしまいます。

また、便秘症が続くと下記のような病気を引き起こすことがあります

・痔、裂肛
便秘症の方は、便の水分が再吸収されてしまい硬くなっていることが多いです。
硬い便だと、排便時にいきむことでいぼ痔(内痔核)になったり、排便の際に肛門を傷つけてしまってきれ痔(裂肛)になってしまうことがあります。

・腸閉塞(糞便性イレウス)、腸炎(閉塞性腸炎)、腸管穿孔
硬い便がつまってしまって、便が流れていかなくなり腸閉塞(糞便性イレウス)を起こすことがあります。また、腸閉塞によって腸の中の圧が高い状態が続くと、腸の粘膜のバリアが壊れてしまって、腸内の細菌が腸の壁の中に入っていき、腸炎(閉塞性腸炎)を起こすことがあります。また、さらに腸の中の圧が高い状態が続くと腸に穴があいてしまうこと(腸管穿孔)があります。腸管穿孔をきたすと、便がお腹の中にまき散らされて腹膜炎をきたし、命にかかわる状態になることがあります。

便秘症の治療

①生活習慣

・生活リズムの改善
生活リズムを整えることで、自律神経が整い、規則正しい排便につながります。

・適度な運動
適度な運動を行うことで、腸の動きが促されます。運動が難しい方は、お腹のマッサージなどでも腸の動きを促すことができます。

・便意を我慢しない
排便を我慢することが多いと、便秘症が悪化しやすくなります。便意を感じた時には我慢せず、トイレに行くようにしましょう。

・水分摂取
水分をしっかりとることで、便がやわらかくなり、排便がしやすくなります。

・食生活の改善
1日3食を規則正しく食べることで腸の活動が促されます。また、乳酸菌などのプロバイオティクスや食物繊維を摂取することも便秘症の改善には有効です。

乳酸菌などはヨーグルトや乳酸菌飲料などに含まれています。

食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があります。
不溶性食物繊維は穀物や豆類・きのこ・芋類・野菜・果物などに多く含まれていて、腸を刺激し、排便を促す働きがあります。
ただし、もともと便が硬い人などが不溶性食物繊維を大量に摂取すると逆に便が硬くなり便秘が悪化してしまうこともありますので、摂取量には注意が必要です。

◎不溶性食物繊維を多く含む食品

  • 野菜類
  • 穀類
  • 豆類
  • 小麦ふすま
  • 熟していない果物
  • ココア
  • きのこ
  • 酵母
  • えびの殻
  • かにの殻

水溶性食物繊維は海藻やこんにゃく、大麦などに多く含まれていて、水に溶けて便を柔らかくしてくれる働きがあります。便秘症の方は特に意識して摂取するようにしましょう。

◎水溶性食物繊維を多く含む食品

  • 熟した果物
  • 海藻  
  • 大麦  
  • 里いも  
  • こんにゃく(こんにゃくの原料は水溶性ですが、食用に市販されているこんにゃうは不溶性です)
②薬物療法

便秘症の薬は大きく分けると、

  • 非刺激性下剤
  • 刺激性下剤

の2つに分けられます。

・非刺激性下剤
便を柔らかくすることで排便を促す薬です。酸化マグネシウム、ルビプロストン、リナクロチドなどの薬があります。

・刺激性下剤
腸のぜん動を促して、排便を促す薬です。センノシドやピコスルファートナトリウムなどの薬があります。

非刺激性下剤と、刺激性下剤の両方の働きをもっているエロビキシバット水和物という薬もあります。

便秘症の治療の基本は非刺激性下剤を毎日飲んでいただき、1~2日に1回もしくは、1日2回程度までの普通便がでるように調整することになります。
非刺激性下剤で排便コントロールがつくまで、もしくは非刺激性下剤だけでは排便コントロールがつかない時に頓用で刺激性下剤を飲んでいただきます。

刺激性下剤を長期間内服していると、慣れてきてしまい、効果が弱くなってしまう場合があります(これについては異なる意見もありますが)ので注意が必要です。

また、病院・診療所でよく処方されており、市販薬にもある酸化マグネシウムですが、長期間投与されていると血中のマグネシウム濃度が上昇し、血圧低下や徐脈などの合併症を起こすことがります。腎機能が悪い方や、高齢の方で起きやすくはなりますが、それ以外の方でもまれに起こることがあるので、長期間酸化マグネシウムを飲まれている方は定期的に血液検査で血中マグネシウムの濃度を測定することが望ましいです。

 

本コラムは便秘症についてご理解いただくのにお役に立ちましたでしょうか?

姫路市で便秘症の治療をご希望の方は書写西村内科にどうぞお気軽にご相談ください。

ページTOPへ

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME