睡眠時無呼吸症候群について
寝ている時にいびきをかいていると周りの方に指摘されたことや、しっかり寝ているつもりなのに日中に眠気があったことはないでしょうか?それは睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)の症状かもしれません。SASは居眠り運転の原因となったり、様々な病気の原因になることがあり、きちんと検査・治療を行うことが大事になります。今回の院長コラムでは睡眠時無呼吸症候群を取り上げます。
睡眠時無呼吸症候群とは?
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に呼吸が止まる病気です。日本には、睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸の数(Apnea Hypopnea Index:AHI)が5回以上(軽症以上)のSASの方が2,200万人、15回以上(中等症以上)のSASの方が9000万人いると推定する論文もあり、多数の患者さんがいると考えられます。ただ、寝ている間の無呼吸については自分ではなかなか気付くことができないため、検査や治療を受けていないSASの患者さんが多くいると考えられます。
高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病のある方はSASを合併しやすいため、特に注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と、中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)、そして閉塞性と中枢性が混ざっている混合性睡眠時無呼吸症候群に分けられます。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は上気道に空気が通る十分なスペースがなくなり呼吸が止まってしまうタイプになります。SASのほとんどが閉塞性睡眠時無呼吸症候群であり、典型的には肥満のある中年男性の方のイメージですが、肥満のない方でもSASをお持ちの方がいらっしゃるので注意が必要です。
中枢性睡眠時無呼吸症候群は脳から呼吸指令が出なくなる呼吸中枢の異常によるものです。睡眠時無呼吸症候群の中でもこのタイプは数%程度です。中枢性睡眠時無呼吸症候群になるメカニズムは様々ですが、心臓の機能が低下した方の30~40%に中枢型の無呼吸がみられるとされています。
睡眠時無呼吸症候群の症状
SASの症状としては下記のようなものがあります。寝ている時の症状に関しては自分ではなかなか気づくことができないので、ご家族さんやパートナーの方に聞いてみるのが有用です。また、最近ではスマートフォンでいびきを録音してくれるアプリもあります。
①寝ている間
- いびきをかく
- いびきが止まり、しばらく呼吸が止まった後に大きな呼吸とともに再びいびきをかきはじめる
- 呼吸が止まる
- 呼吸が乱れる、息苦しさを感じる
- 何度も目が覚める
- 寝汗をかく
②起きた時
- 口が渇いている
- 頭が痛い、ズキズキする
- ぐっすり寝た感じがない
- すっきり起きられない
- 身体が重く感じる
③起きている時
- 強い眠気がある
- だるさ、倦怠感がある
- 集中力が続かない
- いつも疲れた感じがある
睡眠時無呼吸症候群による事故の危険性
SASによって生じる日中の眠気は、判断力・集中力や作業効率の低下につながるおそれがあります。また、単に仕事がはかどらないだけならまだしも、交通事故などを起こしてしまえば自分のみならず、周囲の方への大きな影響を及ぼすことになります。
睡眠呼吸障害を持っている運転者の方は健常人と比べて交通事故のリスクが数倍に上昇するとの報告があります(Garbarino S, et al: Sleep 2016 ; 39 : 1211-1218、Tregear S, et al : J Clin Sleep Med 2009 ; 5 : 573-581)。
また、2016年にアメリカの大手運送会社の職業運転者(トラック運転手)の方を対象とした研究で、睡眠呼吸障害をもっている運転手の方を追跡調査したところ、適切な治療を行っていない運転手では交通事故が健常な運転者の5倍に増加していたとの報告がありました。また、この研究ではCPAP(CPAPに関しては睡眠時無呼吸症候群の治療で後述します)などの治療を適切に行うと、交通事故リスクが健常な運転者と同等まで、改善するという結果でした。つまり、睡眠時無呼吸症候群によって職業運転者の方の交通事故は高くなりますが、適切な治療を行うことで、交通事故防止につながるということがわかりました。
睡眠時無呼吸症候群の合併症
SASの合併症としては高血圧や不整脈、心不全、2型糖尿病などが報告されています。他にも脳卒中(脳梗塞や脳出血、くも膜下出血など)や冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)もSASとの関連が指摘されています。
高血圧
アメリカで行われた睡眠呼吸障害の研究ではSASによる高血圧の発症リスクは健常人の約1.4~2.9倍になるというデータが報告されています(A G Loga, et al : Hypertension 2001:19:2271-2277)。
不整脈
SASは種々の不整脈との関連が言われていますが、心房細動との関連がよく指摘されています。
ポリソムノグラフィー検査を受けた心房細動の既往歴のない3,542名の方を対象にした研究では、心房細動の発症頻度がSASを合併していない場合で2.1%、SASを合併した場合で4.3%と、2倍以上もリスクが高いことが報告されています(Apoor S Gami, et al : J Am Coll Cardio 2007;49:565-571)。
また、566名を対象にした別の研究では、重症のSASの場合、SASではない群に比べて夜間の心房細動の発生頻度が4倍以上高かったとも報告されています(Reena Mehra, et al : Am J Respir Crit Care Med 2006;173:910-916)。
心不全
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は心不全を含めた様々な心臓の病気の原因となります。また、心不全を発症すると、中枢性睡眠時無呼吸症候群を発症するおそれもあります。
2型糖尿病
SASの重症度別に糖尿病の合併割合を調査した研究で、無呼吸低呼吸指数が5~15、15以上と、SASの重症度を増すに連れ、糖尿病の合併割合が高くなり、年齢・性別・ウエスト周りで補正しても、SASを合併していると糖尿病の発症リスクが1.62倍になることが報告されています(Kevin J Reichmuth, et al : Am J Respir Crit Catr Med 2005;172:1590-1595)。
睡眠時無呼吸症候群の検査・診断
SASの検査としてはご自宅での検査が可能な簡易型無呼吸モニタ検査(HSAT/OCST)と、入院が必要になる睡眠ポリグラフ検査(PSG)があります。当院では簡易型無呼吸モニタ検査を行っています。これまではメーカーから検査機器を借りて検査を行っていたので、検査までに少しお時間が必要でしたが、2021年5月に検査機器(フクダ電子社のPulSleep LS-140)を購入しましたで、検査機器が空いていれば速やかに検査を行うことが可能です。
簡易型無呼吸モニタ検査の結果、睡眠ポリグラフ検査での精査が必要な場合は、提携病院にご紹介させていただいて、検査を行ってもらっています。
簡易型無呼吸モニタ検査は自宅で取扱い可能な検査機器を使って、普段と同じように寝ている間に検査を行うことが可能です。手の指や鼻の下にセンサーをつけ、いびきや呼吸の状態、血中酸素飽和度などを測定し、SASの可能性を調べます。
睡眠ポリグラフ検査は入院が必要になる検査になります。お身体に種々のセンサーをつけて、眠っていただき検査を行います。
主な検査項目としては
- 口と鼻の気流(空気の流れ)
- 血中酸素飽和度
- 胸部・腹部の換気運動
- 筋電図
- 眼電図
- 脳波
- 心電図
- いびきの音
- 睡眠時の姿勢 などがあります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断基準は下記になります(睡眠関連疾患国際分類第3版)。
A. 以下のうち少なくとも1項目
- 眠気、熟眠感の欠如、疲労感、不眠のいずれかの症状
- 呼吸が止まる、あえぎ、息が詰まるなどで目が覚める
- 高血圧、気分障害(うつ病などです)、認知機能障害(認知症のことです)、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞です)、脳卒中(脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などです)、うっ血性心不全、心房細動、2型糖尿病のいずれかを合併
B. 睡眠ポリグラフ検査、簡易型無呼吸モニタ検査のいずれかで以下の数値を満たす
閉塞型呼吸イベント(閉塞型または混合型無呼吸、低呼吸、または呼吸努力関連覚醒反応)をカウント
- 睡眠ポリグラフ検査:睡眠1時間あたり5回以上
- 簡易型無呼吸モニタ検査:記録1時間あたり5回以上
C. 睡眠ポリグラフ検査、簡易型無呼吸モニタ検査のいずれかで以下の数値を満たす
閉塞型呼吸イベント(閉塞型または混合型無呼吸、低呼吸、または呼吸努力関連覚醒反応)をカウント
- 睡眠ポリグラフ検査:睡眠1時間あたり15回以上
- 簡易型無呼吸モニタ検査:記録1時間あたり15回以上
上記のA+BまたはCを満たすと閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
ややこしいようですが、簡単にいうと「検査で1時間に5回以上の無呼吸などがあって
、睡眠時無呼吸症候群の症状もしくは睡眠時無呼吸症候群に合併しやすい病気がある」か「検査で1時間に15回以上の無呼吸などがある」ということになります。
また、SASの重症度については
無呼吸低呼吸指数(AHI):(無呼吸数+低呼吸数)÷睡眠時間 によって下記のように分類されています。
- AHI:5~15→軽症
- AHI:15~30→中等症
- AHI:30以上→重症
睡眠時無呼吸症候群の治療
SASの治療としてはCPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)、マウスピース、外科手術があります。
①CPAP療法
閉塞性睡眠時無呼吸症候群に有効な治療方法として欧米や日本国内で最も普及している治療方法です。CPAP療法の原理は、寝ている間の無呼吸を防ぐために気道に空気を送り続けて気道を閉じないようにするというものです。CPAPの装置からチューブを通って、鼻に装着したマスクから気道へと空気が送り込まれます。
CPAP療法に関しては保険適応での治療になるには条件があり、軽度のSASでは保険診療では使うことができません。
日本の保険診療でのCPAP療法の適応は
- 簡易型無呼吸モニタ検査での呼吸障害指数(*)が40/時 以上
*色々な名称が出てきますが呼吸障害指数は睡眠ポリグラフ検査での無呼吸数指数に相当するものです。 - 睡眠ポリグラフ検査での無呼吸低呼吸指数が20/時 以上
となっています。
米国睡眠学会による論文ではCPAP療法は無治療と比較して閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度を改善し、エプワース眠気尺度のスコアや夜間の収縮期・拡張期血圧、24時間平均血圧の改善が確認されました。また、自動車の衝突事故率や生活の質の改善も認められています(Patil SP, et al : J Clin Sleep Med 2019 ; 15 : 301-334)。
②マウスピース
CPAP療法が保険適応にならない軽症の場合や、CPAP療法がどうしても合わない場合には、マウスピース(スリープスプリントとも言われます)で治療するケースがあります。下あごを上あごよりも前方に出すように固定させることで上気道を広く保ち、いびきや無呼吸の発生を防ぐ治療方法です。
③外科手術
小児の多くや成人の一部で、SASの原因がアデノイドや扁桃肥大などの場合は、摘出手術が有効な場合があります。他にもいくつかの外科手術がありますが、詳細は割愛させていただきます。
寝ている時にいびきをかく、いくら寝てもぐっすり眠れた感じがしない、日中の眠気で困っているなどといった症状がおありの方は睡眠時無呼吸症候群の可能性があるかもしれません。姫路市で睡眠時無呼吸症候群についての検査や治療をご希望の方はどうぞお気軽に当院にご相談ください。