新型コロナウイルスについて
- コロナウイルスとは
- 感染経路について
- 感染予防について
- 潜伏期間・症状について
- 帰国者・接触者相談センターに相談する目安
- 診断法について
- 姫路市での新型コロナウイルス感染症の検査状況および相談状況について
- 抗体検査の結果について
- 治療法について
- 妊婦の方の重症度について
- 感染力について
- 新型コロナウイルス感染症の退院基準・解除基準について
- 中国からの報告について
- 当院での新型コロナウイルス抗体検査について
コロナウイルスとは
現在新型コロナウイルスが取りざたされていますが、そもそもコロナウイルスとはどのようなウイルスなのでしょうか?
発熱や上気道症状を引き起こすウイルスで、人に感染するものは6種類が知られています。そのうち4種類のウイルスは、風邪の原因の10~15%(流行期は35%)を占めています。残りの2つは、動物から感染するウイルスで中東呼吸器症候群(MERS)や重症急性呼吸器症候群(SARS)といった重症の肺炎を引き起こします。
現在問題となっている新型コロナウイルス(COVID-19)はこのコロナウイルスの新種になります。
感染経路について
現時点では飛沫感染と接触感染の2つが考えられています。
①飛沫感染
感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つばなど)と一緒にウイルスが放出され、他の人がそのウイルスを口や鼻から吸い込んで感染します。
※感染を注意すべき場面:屋内などで、お互いの距離が十分にとれない状況で一定時間いるとき
②接触感染
感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りの物に触れるとウイルスが付きます。他の人がその物を触るとウイルスが手について、その手で口や鼻、目を触ることで粘膜から感染します。
※主な感染場所:電車やバスのつり革、ドアノブ、スイッチなど
2020/3/23 追記
米疾病対策センター、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、プリンストン大学の研究者らから環境中での生存時間についての研究結果が2020/3/17にNew England Journal of Medicineに発表されました。
空気中(医療用噴霧器を用いてエアロゾルという微粒子にした状態):3時間
銅の表面:4時間
ボール紙の表面:24時間
プラスチックの表面:2~3日間
ステンレスの表面:2~3日間
上記のような結果でした。
数時間から数日間は生存可能との報告であり、次の段落で述べるような感染対策が重要になります。
感染予防について
感染予防について重要なのがうがいや石けんやアルコール消毒液などによる手洗いです。また、手で目や口や鼻を触るのはできるだけやめておきましょう。
可能であれば公共交通機関や人混みの多い場所を避けることが感染予防策になります。感染の可能性のある方からは少なくとも1mの距離をおくことも推奨されています。
マスクについては混み合った場所、特に屋内や乗り物など換気が不十分な場所では一つの感染予防策と考えられます。ただ、屋外では相当混み合っていない限り、マスクを着用することによる効果はあまり認められていません。また、マスクを触った手で目や鼻をこすったりしないように気を付けましょう。
万が一自分がかかっていた場合に、自分の咳やくしゃみから周りの人の感染を防ぐという意味ではマスクの効果は高いので、咳やくしゃみ等の症状のある人は積極的にマスクをつけた方がいいと考えられます。
2020/4/24 追記
北里大学研究所から「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARSSARS-CoV -2)不活化効果について」という研究結果が報告がされました。これは、市販されている医薬部外品・雑貨のうち、エタノール・界面活性剤成分を含み新型コロナウイルスの消毒効果が期待できる製品を対象に、新型コロナウイルス不活化効果の可能性について、試験管内でのウイルス不活化評価を行った研究です。
研究は製品と対象の接触時間によって2つのグループに分けて行われました。
① 接触時間:1分→つまり、手指の洗浄や拭き取り洗浄に用いる製品
不活化効果があったものは下記の製品でした。
かんたんマイペット(原液)
クイックルワイパー 立体吸着ウエットシート 香りが 残らないタイプ(絞り液)
クイックルワイパー 立体吸着ウエットシートストロング(絞り液)
クイックル Joan シート(絞り液)
クイックル Joan 除菌スプレー(原液)
食卓クイックルスプレー(原液)
セイフキープ(絞り液)
トイレマジックリン 消 臭・洗浄スプレー ミントの香り(原液)
ハンドスキッシュ EX (原液)
ビオレガード薬用泡ハンドソープ(原液)
ビオレ u薬用泡ハンドソープ (3倍希釈)
ビオレガード 薬用手指用消毒スプレー(原液)
ビオレガード薬用ジェルハンドソープ (3 倍希釈)
ビオレu手指の消毒液(原液)
リセッシュ除菌 EX プロテクトガード(原液)
このグループで研究を行った製品では不活化効果がなかった製品はありませんでした。
② 接触時間:10分→つまり、洗濯や器具の洗浄に用いる製品
不活化効果があったものは下記の製品でした。
アタック高浸透リセットパワー(3.5g/L)
アタック ZEROZERO(3000倍希釈液)
クリーンキーパー(100倍希釈)
ワイドハイター EX パワー液体(100倍希釈液)
ワイドハイター EX パワー粉末(5.0g/L)
ワイドマジックリン 10g/L
このグループで研究を行った製品ではアタック抗菌 EX スーパークリアジェル(1200倍希釈液)が不活化効果はありませんでした。
今回の報告では、「不活化効果が確認された製品は、新型コロナウイルスの不活化に有効と考えられ、新型コロナウイルスの汚染が懸念される手指や硬質表面の洗浄の他、日常使用する衣類やリネン類の洗浄などに活用が期待できる」とまとめられていました。
2020/6/1 追記
2020/5/29に独立行政法人製品評価技術基盤機構から新型コロナウイルスに対して有効であると判断された住宅・家具用洗剤等に使われる界面活性剤が発表されました。
2020/5/29の発表時点では下記の種類が有効と判断されています。
- 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)
- アルキルグリコシド(0.1%以上)
- アルキルアミンオキシド(0.05%以上)
- 塩化ベンザルコニウム(0.05%以上)
- 塩化ベンゼトニウム(0.05%以上)
- 塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(0.01%以上)
- ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2%以上)
上記の有効と判断された界面活性剤を含む家庭用洗剤のリストも独立行政法人製品評価技術基盤機構から公開されています。下記リンクをご覧ください。
有効と判断された界面活性剤を含む家庭用洗剤のリスト(2020年5月29日版)
なお、「次亜塩素酸水」については、有効かどうかの判定に至らず、引き続き検証試験を実施することとなりました。
2020/5/29 追記
日本小児科医会から「2歳未満の子どもにマスクは不要、むしろ危険!」と発表されました。
乳児では
・マスクによる呼吸や心臓の負担
・マスクそのものや嘔吐物による窒息のリスク
・マスクによる熱中症のリスク
・マスクで隠されることによる体調変化の気付きの遅れ
などの悪影響が懸念されること。
また、
・新型コロナウイルスの子どもへの感染は少なく、ほとんどが同居する家族からの感染である
・子どもの重症例は極めて少ない
・学校、幼稚園や保育所におけるクラスター発生はほとんどない
・感染した母親の妊娠・分娩でも母子ともに重症化の報告はなく、母子感染もまれ
であり、子どもの新型コロナウイルス感染症は今のところ心配が少ない
といったことから2歳未満の子どもへのマスクの使用はやめるように提言されています。
2020/6/26 追記
理化学研究所などのチームから次世代スーパーコンピュータ「富岳」を用いて、オフィスや電車内で飛沫が拡散する状況などを予測した結果が公表されました。
オフィスで4人が2人ずつ向かい合って座ることを想定して予測を行ったところ、口の位置にあたる、床から120cmの高さまでの仕切り板を置いても、1人が強い咳をすると向かいの席の人に多量の飛沫がかかりました。140cm以上あれば、直撃を避けられることができ、飛沫量も10分の1以下に減りました。また、隣の席や斜め向かいに座ると、飛沫がかかる量が少ないこともわかりました。これは飲食店にも応用できるということです。
電車内では、窓を左右2か所ずつ20cm開けると、車内上部の空気に流れが生じて換気が進み、窓を閉めている場合より2~3倍速く空気が入れ替わったとの結果でした。ただ、混雑が増すと低い位置での換気効率は下がる結果になりました。
湿度による予測では、梅雨などの湿った時期は飛沫が蒸発しにくいことが確認されました。机の上などに付着しやすくなり、机を共有することなどで感染リスクが増すので、注意が必要になります。
潜伏期間・症状について
潜伏期間は1~14日で多くは4~5日前後との報告があります。
最も多い症状は発熱と全身倦怠感、咳になります。他には食欲不振、のどの痛み、鼻づまり、鼻水、下痢といった症状をきたすこともあります。阪神の藤波投手のニュースで有名になりましたが嗅覚障害や味覚障害を起こすことがあります。初期症状は風邪やインフルエンザなどと似ており、早期から診断を付けることはなかなか難しいと考えられます。
発症早期から肺炎を起こすことや、上記のような風邪症状に続いて肺炎を合併することがあり、肺炎を来たすと呼吸困難の症状が出てきます。
80%程度の人が特別な治療なしに改善しますが、13%程度の人で重症になる場合があります。
2020年2月20日付のWHOの報告によると中国での死亡率は2.8%ですが、中国以外では0.7%でした。
帰国者・接触者相談センターに相談する目安
帰国者・接触者相談センターに相談する目安が変更になったので修正しました(2020/5/11 修正)。
厚生労働省は下記の状態であれば帰国者・接触者相談センターへの相談を勧めています。
☆息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
☆重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合
(※)高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD 等)等の基礎疾患がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方、妊娠中の方
☆上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合
(症状が4日以上続く場合は相談を勧められています。また、症状には個人差があるので、強い症状と思う場合にはすぐに相談するように勧められています。)
*お子さんについては、小児科医による診察が望ましく、帰国者・接触者相談センターやかかりつけ小児医療機関に電話などでの相談が勧められています。
医療機関を受診する際にはマスクを着用するほか、手洗いや咳エチケット(咳やくしゃみをする際に、マスクやティッシュ、ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえる)をお願いします。
兵庫県の帰国者・接触者相談センターについては下記のページをご覧ください。
姫路市の新型コロナウイルス関連の相談窓口については下記のページをご覧ください。
姫路市ホームページ:姫路市の新型コロナウイルス関連の相談窓口について
姫路市保健所問い合わせ先
電話番号:079-289-0055 (8:35~21:00)
FAX :079-289-0099(電話がつながらない場合)
診断法について
診断方法としては、咽頭ぬぐい液(インフルエンザの検査と同じように綿棒でのどをぬぐってとった液体)を用いて、核酸増幅法(PCR法など)でウイルス遺伝子の有無を確認します。実際に検査を検討する場合は、疑似症として保健所に届け出た後に、地方衛生研究所または国立感染症研究所などで検査することになります。
詳しくはお近くの保健所にお問い合わせください。
2020/6/2 追記
新型コロナウイルス感染症のPCR検査が、発症から9日までの人であれば唾液を検体として検査を行うことが2020/6/2に厚生労働省より認められました。
厚生労働省の研究班が発症から14日以内に採取された88症例の鼻の粘液と唾液を調べたところ、9日以内の検体では判定の結果がほぼ一致するなど精度に問題がないことがわかったため、唾液での検査が認められることになりました。
これまでは医師や看護師らの医療者が鼻の奥の粘液を綿棒でぬぐっていましたが、唾液であれば患者さんが自分で容器に入れればいいので、患者さんの苦痛も、医療従事者の感染のリスクも軽減することができます。
姫路市での新型コロナウイルス感染症の検査状況および相談状況について(2020/5/11 追記)
姫路のホームページで新型コロナウイルス感染症の検査数や相談数が公開されています。
2020/1/31~5/10の検査結果は陽性 40人、陰性 1177人でした。
また、2020/5/10の検査結果は陽性 0人、陰性 23人でした。
2020/5/10までの報告時点では姫路市でのPCR陽性例は5/2が最終となっています。
皆さんの自粛への努力が実を結んできているのでしょうか。このまま発生がないことを祈るばかりです。
最新情報については姫路市ホームページをご覧ください。
姫路市ホームページ 「新型コロナウイルス感染症の検査状況および相談状況について」
2020/5/15 追記
5/14に姫路市でのPCR陽性例が報告されました。以前より陽性報告の間隔はあいては来ているもののまだまだ油断はできません。
2020/5/25 追記
姫路市では5/14に1例、PCR陽性例が報告されてからはPCR陽性例は報告されていません。このまま陽性例が出ないことを祈るばかりですが、兵庫県でも5/21に緊急事態宣言が解除されたため、今後また増えてこないか注意が必要です。
2020/6/27 追記
姫路市では、5/14に1例 PCR陽性例が報告されてからは、依然としてPCR陽性例は報告されていません。
2020/7/13 追記
全国で新型コロナウイルス感染者の方の数が増えていますが、ついに姫路市でも7/12に3例、PCRが陽性になった方がいたと報告されました。
2020/7/21 追記
姫路市では7/12に3例、PCR陽性の方が報告されましたが、その後も7/15に4例、7/17に2例、7/18に1例、7/19に1例の方でPCRが陽性になったと報告されています。
抗体検査の結果について(2020/5/27 記載)
色々な国や施設から新型コロナウイルスの抗体検査の結果が報告されています。検査の精度の問題もあるので、どこまで正確に感染歴をとらえているのかは検証が必要ですが少しふれておきます。
神戸大学から、兵庫県と連携して兵庫県内2千人の抗体検査を始めたとの発表がありました。
5月上旬にすでに検査を終えた加古川医療センターでは医師77人や看護師310人など509人(男性88人、女性421人)の全員が抗体陰性であったとの結果でした。
加古川医療センターでは新型コロナウイルス感染症の入院患者さんもおられますが、検査をした医療従事者で抗体が陽性になった方はおらず、院内感染対策がうまくいっているようです。
2020/6/2 追記
2020/5/31に東京大学先端科学技術研究センターから福島県で施行した医療・介護従事者680名の方の抗体の精密測定の結果について発表がありました。
抗体の精密測定の結果では680人中6人(0.88%)の方が陽性でした。抗体測定の簡易キットでは58名が陽性になっており、精密測定と差がありました。
簡易キットでは偽陽性(本当は陰性なのに、陽性という結果がでてしまうこと)が多く出る可能性が考えられる結果でした。
2020/6/26 追記
厚生労働省が日本国内での抗体保有状況の把握のために行った検査の結果が2020/6/16に発表されました。
東京都、大阪府、宮城県の3都府県について、それぞれ一般住民の約3,000名の方を性・年齢区分別に無作為抽出し、6月第一週に血液検査を実施した結果です。
各自治体の抗体保有率は、東京都0.10%、大阪府0.17% 、宮城県は0.03%でした。
各自治体の抗体保有者は、累積感染者数と比較すると多いものの、依然として大半の人が抗体を保有していないという結果でした。
詳細は下記の厚生労働省の発表資料のリンクをご覧ください。
2020/7/15 追記
2020/6/26に追記で記載した厚生労働省が東京都、大阪府、宮城県で行った抗体検査で、アボット社およびロシュ社の両方の抗体検査で陽性になった8人の方の検体すべてで中和抗体が確認されたと、厚生労働省から7/15に発表されました。
中和抗体はウイルス感染を阻害する機能を持つ抗体で、いわゆる免疫を獲得したことを意味します。アボット社かロシュ社のいずれかの抗体検査で陽性になった人や、閾値付近の陰性の人(要するに抗体の値が上昇はしていますが陽性と判定するレベルまでは達していない人です)では、中和抗体は検出感度未満でした。抗体の体内での持続期間などは引き続き検討される方針になっています。
◎2020/7/1から当院でも新型コロナウイルスの抗体検査を開始しました。血液検査で検査が可能になっていますのでお気軽にご相談ください。
現在、新型コロナウイルス感染症を発症しているおそれがある方はPCR検査や抗原検査がお勧めされます。当院ではPCR検査や抗原検査は行っていませんので、ご了承ください。
詳細は下記リンクからご覧ください。
治療法について
2020年2月26日に日本感染症学会から、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第1版」が発表されました。
現在は2020年5月8日に公開された第3版まで改訂されており、下記の内容も修正しています(2020/5/25 修正)。
抗ウイルス薬投与の対象と開始のタイミングについては下記のように示されました。
1. 概ね60歳未満の患者では肺炎を発症しても自然経過の中で治癒する例が多いため、必ずしも抗ウイルス薬を投与せずとも経過を観察してよい。
2. 概ね60歳以上の患者では重篤な呼吸不全を起こす可能性が高く、死亡率も高いため、低酸素血症を呈し継続的な酸素投与が必要となった段階で抗ウイルス薬の投与を検討する。
3. 糖尿病・心血管疾患・慢性肺疾患・悪性腫瘍、喫煙による慢性閉塞性肺疾患、免疫抑制状態等のある患者においても上記2.に準じる。
4. 年齢にかかわらず、酸素投与と対症療法だけでは呼吸不全が悪化傾向にある例では抗ウイルス薬の投与を検討する。
5. PCRなどによりCOVID-19 の確定診断がついていない患者は抗ウイルス薬の適応とはならない。
抗ウイルス薬の選択肢としては抗インフルエンザウイルス薬のアビガン(一般名ファビピラビル)、エボラウイルス感染症の治療薬のベクルリー(一般名レムデシビル)、気管支喘息に使用する吸入ステロイド薬のオルベスコ(一般名シクレソニド)、抗HIV薬のカレトラ(一般名ロピナビル・リトナビル)、マラリアの治療薬のプラニケル(一般名ヒドロキシクロロキン)が提示されています。また、その他の薬剤として関節リウマチなどの膠原病疾患に使用する抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体のアクテムラ(一般名トシリズマブ)が提示されています。
他国からの報告であまり効果がないと報告されているものや、治療効果よりも副作用の方が強いものと報告されているものもあり、どの薬剤を使用するのかが一番いいのかはまだ決まっていません。
2020/3/23 追記
2020/3/19に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)成人患者199例を対象に、抗HIV薬ロピナビル・リトナビル(カレトラ®)の効果を非盲検無作為化比較試験で検討した結果が報告されました。残念ながら、臨床的改善までの期間、28日時の死亡率ともにロピナビル・リトナビル使用群と標準治療群との間で有意な差はないとの報告でした。
(出典:Bin Cao, et al. Serial Interval of Novel Coronavirus (COVID-19) Infections. N Engl J Med. 2020 Mar 19)
この報告からだけでロピナビル・リトナビルが効かないと言い切れるわけでなく、さらなる研究が必要ですが、残念ながら効果があるという報告ではありませんでした。
現在世界中で、既存薬で新型コロナウイルス感染症に効果があるものがないか研究されており、新薬の開発も取り組まれています。
また、アメリカでは新型コロナウイルス感染症のワクチン候補を評価するための、ヒト臨床試験が2020/3/16に開始されました(2020/3/16 米国立衛生研究所発表)。安全性や効果の評価にはまだまだ時間がかかるでしょうが、早く有効な薬やワクチンが使用できるようなることを祈るばかりです。
2020/4/13、5/11 追記
現在上記に記載したロピナビル・リトナビル、ファビピラビル以外に臨床研究が行われている新型コロナウイルス感染症の治療薬としては
抗ウイルス薬のレムデシビル
喘息治療薬のシクレソニド(オルベスコ®)
抗マラリア薬のリン酸クロロキン
皮膚エリテマトーデス/全身性エリテマトーデス治療薬のヒドロキシクロロキン(プラニケル®)
抗寄生虫薬のイベルメクチン
膵炎治療薬のナファモスタット(フサン®など)
抗ウイルス薬のレムデシビル
喘息治療薬のシクレソニド(オルベスコ®)
抗マラリア薬のリン酸クロロキン
皮膚エリテマトーデス/全身性エリテマトーデス治療薬のヒドロキシクロロキン(プラニケル®)
膵炎治療薬のナファモスタット(フサン®など)
などがあります。
また、新型コロナウイルス感染症による重症肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療薬として候補に挙がっている薬剤としては
関節リウマチなどの治療薬である抗IL-6受容体抗体のトシリズマブ(アクテムラ®)
同じく抗IL-6受容体抗体のサリルマブ(ケブザラ®)
JAK阻害薬のバリシチニブ(オルミエント®)
同じくJAK阻害薬のトファシチニブ(ゼルヤンツ®)
などがあります。
2020/4/10にはNew England Journal of Medicineに新型コロナウイルス感染症の重症例58例に対し、レムデシビルを投与して36例(68%)で改善が見られたという報告が掲載されました(Compassionate Use of Remdesivir for Pat1ients with Severe Covid-19)。
まだ少数のデータであり、これからも検証が必要かと思われますが、いい結果が出て一人でも多くの新型コロナウイルス感染症の患者様を救命できることを切に願います。
2020/4/17 追記
リン酸クロロキンに関してはブラジルの臨床試験で高用量投与で重篤な不整脈を引き起こすおそれがあるとの報告がありました。また、低用量投与でも安全かどうかについてはさらなるデータの蓄積が必要と考えられます。
2020/5/11 追記
レムデシビル(ベクルリー®)が新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認されました。
ただ、添付文書(薬の説明書です)には「主な投与経験は、酸素飽和度94%(室内気)以下、酸素吸入を要する、体外式膜型人工肺(ECMO)導入または侵襲的人工呼吸器管理を要する重症患者に対してであることから、現時点では原則として重症患者を対象に投与を行うこと」との記載があります。
また、5/11には政府より日本国内でも早ければ7月から新型コロナウイルスのワクチンの治験を開始できる見込みであると発表がありました。
2020/5/27 追記
2020/5/25にWHOから抗マラリア薬であるヒドロキシクロロキンの新型コロナウイルス感染症に対する有用性を検証する臨床試験を一時中断するとの発表がありました。ヒドロキシクロロキンもしくはクロロキンの投与により死亡率が上昇し、心室頻拍がみられるという下記の論文が掲載されたことを踏まえ、安全性が確認されるまで試験を中断する見込みです。
‘Hydroxychloroquine or chloroquine with or without a macrolide for treatment of COVID-19: a multinational registry analysis’
Mandeep R Mehra et al, The Lancet Published: May 22, 2020
6つの大陸の671の病院のデータから、新型コロナウイルス感染症で入院した患者9万6032人を、治療群1万4888人、対照群8万1144人にわけ、治療効果を検証しました。治療群は、クロロキン単独投与が1868例、ヒドロキシクロロキン単独投与が3016例、クロロキンとマクロライド系抗生物質の併用が3783例、ヒドロキシクロロキンとマクロライド系抗生物質の併用が6211例でした。
登録された患者さんのうち、11.1%(1万698例)が亡くなりました。複数の交絡因子を踏まえて解析した結果、死亡率は対照群で9.3%だったのに対し、ヒドロキシクロロキン単独群では18.0%(ハザード比:1.335、95%信頼区間:1.223-1.457)、ヒドロキシクロロキンとマクロライド系抗生物質の併用群では23.8%(ハザード比:1.447、95%信頼区間:1.368-1.469)、クロロキン単独群では16.4%(ハザード比:1.365、95%信頼区間:1.218-1.531)、クロロキンとマクロライド系抗生物質の併用群では22.2%(ハザード比:1.368、95%信頼区間:1.273-1.469)と、いずれも入院中の死亡率の有意な上昇がみられました。
また、入院中の心室性不整脈が対照群の0.3%に対し、ヒドロキシクロロキン単独群では6.1%(ハザード比:2.369、95%信頼区間:1.935-2.900)、ヒドロキシクロロキンとマクロライド系抗生物質の併用群では8.1%(ハザード比:5.106、95%信頼区間:4.106-5.983)、クロロキン単独群では4.3%(ハザード比:3.561、95%信頼区間:2.760-4.596)、クロロキンとマクロライド系抗生物質の併用群では6.5%(ハザード比:4.011、95%信頼区間:3.344-4.812)と有意に多く、心室性不整脈との関連性が認められました。
残念ながらヒドロキシクロロキンおよびクロロキンを新型コロナウイルスに対し使用するのは不利益であるという結果でした。
*この内容については下記の追記もご覧ください。
2020/6/8 追記
新型コロナウイルス感染症の治療に抗マラリア薬を使用することに安全性の懸念があるとした上記の論文ですが、著者4人のうち3人が4日、論文を撤回しました。
データを提供した国と病院に関する情報がないことから、多くの研究者らが公開質問状でこの論文の信頼性について懸念を表明していたところ、ついに論文が撤回されることとなっています。
研究を主導した米ハーバード大学医学部のマンディープ・メフラ教授と、スイス・チューリッヒ大学病院のフランク・ルシツカ氏、米ユタ大学のアミト・パテル氏は共同声明で、第三者による検証を試みようとしたと主張していました。
ただ、患者記録を検証し、研究結果を再現することが求められましたが、データを提供した米イリノイ州シカゴの医療データ分析会社サージスフィアが検証への協力を拒否したため、 著者3人は、「我々が1次データソースの正確性を保証することはもはやできない」と表明し、論文を撤回することとなりました。なお、論文の著者の1人でサージスフィアの創業者サパン・デサイ氏は、撤回を表明していません。
また、WHOも6/3にヒドロキシクロロキンを含めた臨床試験を再開することを明らかにしました。
2020/7/13 追記
イギリスのオックスフォード大学が主導している臨床研究でデキサメタゾンというステロイド薬が新型コロナウイルス感染症の重症例の死亡率を減少させることが明らかになりました。デキサメタゾン治療群 2104人と、標準治療群 4321人の比較試験になります。治療開始から28日間の死亡率は、人工呼吸器を装着した患者さんで標準治療群 41%、デキサメタゾン治療治療群 27%(リスク比:0.65、95%信頼区間:0.48-0.88、p=0.0003)、酸素吸入のみの患者さんでは標準治療群 25%、デキサメタゾン治療群 20%(リスク比:0.80、95%信頼区間:0.67-0.96、p=0.0021)であり、いずれもデキサメタゾン治療群で有意に低かったという結果でした。ただ、呼吸器への治療介入を必要としなかった患者さんでは治療開始から28日間の死亡率を下げることはできませんでした。
今回の研究は酸素投与や人工呼吸器で治療が必要な重症患者さんにはデキサメタゾンによる治療の効果があったという結果でした。これは一般的に普及している薬剤ですので、これが効果があるというのは非常に有益な情報と考えられます。
妊婦の方の重症度について(2020/4/18 記載)
妊婦の方の新型コロナウイルスの感染の報告もあり、妊婦の方はより一層新型コロナウイルスについて不安を感じておられると思います。米国のニューヨーク・プレスビテリアン病院の系列医療機関2施設で、2020年の3月13日から27日に出産のため来院した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)妊婦の方43例の重症度について報告がありました(Breslin N, et al. Am J Obstet Gynecol MFM. 2020 Apr 9)。
この報告では、軽症86%、重症9.3%、重篤4.7%であり、既報で報告されている非妊娠COVID-19成人例の方の比率(軽症80%、重症15%、重篤5%)とほぼ同じ結果でした。
また、出生日(日齢0日)の初回検査では、新生児のCOVID-19確定例は認められませんでした。
妊婦の方で特に重症化しやすいというわけではなさそうですが、重篤になっている方もおられ、手洗い・うがいや人混みを避ける、マスクをつけるなどの感染対策が重要であることには変わりはないですのでどうぞご注意下さい。
感染力について(2020/5/15 追記)
台湾で、2020/1/15から3/18の間に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者さん 100例とその濃厚接触者の方2761例を対象に、発症時期による2次感染率などを推定した論文が発表されてました(Cheng HY, et al. JAMA Intern Med. 2020 May 1)。
COVID-19の確定診断にはRT-PCR検査を用いています。濃厚接触者は、調査期間中に個人用防護具を着用せずCOVID-19患者(初発症例)と対面で15分以上接触した人、医療施設では個人用防護具を着用せず発端者と2メートル以内の距離で接触した人と定義されています。
濃厚接触者のうち23例に2次感染が認められ、基準を満たさなかった1例を除く22例を分析した結果、全体の2次感染リスクは0.8%(95%信頼区間 0.5-1.2%)でした。無症候の初発症例(9例)からの2次感染は認められませんでした。潜伏期間の中央値は4.1日(0.4-15.8日)で、発症間隔(初発症例の発症から2次感染者が発症するまでの期間)中央値は4.1日(0.1-27.8日)でした。
2次感染例のうち18例が発症し、2次発症率は0.7%(95%信頼区間0.4-1.0%)でした。2次感染例は、全例が初発症例が発症してから5日以内に接触していました。また、2次発症率は、発端者の発症5日以内に接触した1818例では1.0%(95%信頼区間0.6-1.6%)でしたが、発症6日以降に接触した852例では1例も認められませんでした。2次感染リスクは、発端者の発症前に接触した735例でも高く、2次発症率は1.0%(95%信頼区間 0.5-2.0%)でした。
今回の報告だけでは、発症から6日以降であれば感染の可能性がないとは言い切れません。新型コロナウイルス感染症を発症してからどれぐらいの隔離期間が必要なのかを決めるにはまだまだデータの蓄積が必要と考えられますのでご注意下さい。
2020/5/19 追記
中央事故収拾本部のユン・テホ防疫総括班長から18日の記者会見で「再陽性者および接触者を対象に疫学調査とウイルス学的な検査を実施した結果、再陽性者に感染力があるという根拠は確認されなかった」との発表がありました。韓国から新型コロナウイルス感染症が完治して、隔離が解除された感染者の中で再びPCRが陽性になる事例が報告されていましたが、再陽性と診断された285人と接触した790人を調査した結果、他の感染源が考えられる3人を除いて感染は確認されなかったと韓国政府から発表されました。
再陽性者108人の検体を培養したところ、ウイルスは検出されず、検査では死んだウイルスを検出していた可能性が高く、「伝染する力はない」と判断しているということでした。
韓国は新型コロナウイルス検査に、ウイルスの遺伝物質を検出するRT-PCR法を採用していす。RT-PCR法は素早い判定が可能で、新型コロナに感染したかどうかを判定する精度が最も高いと考えられています。ただ、再陽性者ではウイルスの古い断片を検出している可能性があります。RT-PCR法では感染力のあるウイルス片と感染力のないウイルス片を区別できないので、再陽性者が本当に隔離しないといけないのどうかや、症状が再燃するおそれがあるのかは判断できません。今回の韓国政府の発表では古いウイルス片が検出されており、感染する力はないとの見解でした。
ただ、本当に感染力がないのかどうかはもう少しデータの集積が必要かもしれません。今後、日本を含めた世界各国が再陽性者に対し、どのような対応するのか注目していきたいと思います。
新型コロナウイルス感染症の退院基準・解除基準について
2020/6/12から新型コロナウイルス感染症の退院基準および宿泊療養等の解除基準が下記のように変更になりました。
①症状がある方の場合
- 発症日から10日間経っており、かつ症状が軽快してから72時間以上が経った場合
- 症状が軽快してから24時間以上経った後で、24時間以上間隔をあけて、2回のPCR検査で陰性が確認できた場合
*発症日は症状が出始めた日になります。
発症日が明らかではない場合は検査結果が陽性になった検体を採取した日とされています。
*症状の軽快とは解熱剤を使用せずに解熱しており、呼吸器症状が改善傾向にある場合とされています。
②新型コロナウイルスにかかっているが、症状がない方の場合
- 検査結果が陽性になった検体を採取した日から10日間経った場合
- 検査結果が陽性になった検体を採取した日から6日間経った後で、24時間以上間隔をあけて、2回のPCR検査で陰性が確認できた場合
中国からの報告について
中国疾病管理予防センターの新型コロナウイルスに対する調査結果について中国の衛生当局から2020/2/17に公表されました。
(‘’The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19) – China, 2020’’ ; CCDC Weekly/Vo.2 / No.8)
中国全土の感染者4万4672人について調べたもので、下記のようなデータが提示されていました。
・感染が最も深刻な中国湖北省では致死率は2.9%で、中国の他の地域では0.4%でした。
・感染者の80.9%は軽度に分類され、13.8%が重度、4.7%が致命的でした。
・9歳までの子どもで亡くなった方はいませんでした。
・39歳までの致死率は0.2%と低い結果でした。
・致死率は40代が0.4%、50代が1.3%、60代が3.6%、70代が8%と、年齢層が上がるにつれ徐々に上昇していました。
・男女別では、男性(致死率2.8%)が女性(同1.7%)よりも死亡する確率が高かったです。
・既往症(他に持っている病気)別の危険度では、心臓病が1位で、糖尿病、慢性呼吸疾患、高血圧が続くという結果でした。
当院での新型コロナウイルスの抗体検査について
2020/7/1から当院でも新型コロナウイルスの抗体検査を開始しました。血液検査で検査が可能になっていますのでお気軽にご相談ください。
現在、新型コロナウイルス感染症を発症しているおそれがある方はPCR検査や抗原検査がお勧めされます。
当院ではアメリカのオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス社製の下記の2種類の検査が可能です。これは日本では、現在は指定された医療機関でしか行えない検査になっています。
- ビトロスアンチ-SARS-CoV-2 IgG抗体検査試薬キット
- ビトロスアンチ-SARS-CoV-2 トータル抗体検査試薬キット
これは2020年4月にアメリカ食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を取得した新型コロナウイルス抗体検査試薬です。アメリカで健常人400人を対象に実施した試験では、両製品ともに新型コロナウイルスの特異度が100%を示していました。つまりこの検査で陽性であれば新型コロナウイルスに感染していた可能性が極めて高いと考えられます。
また、PCR検査との判定一致率が98.5%以上と高い精度が確認されています。
①のIgG抗体検査試薬では、感染後期に出現し回復後も患者の血液に存在するIgG抗体のみを検出し、②のトータル抗体検査試薬では、感染初期の急性期に出現するIgM抗体を含む全ての抗体を検出します。これらの2種類を用いることで、新型コロナウイルス感染による免疫獲得の有無を判断することが可能になります。
*IgM抗体は感染の初期段階(約1~2週間以内)で生成されます。
*IgG抗体は感染して約1~2週間以内に生成され始め、数年の間持続します。
*IgM抗体・IgG抗体の推移については下記リンクの東京大学アイソトープ総合センターから発表されている2020年6月11月現在の「新型コロナウイルスの検査結果の推移」暫定説明PDFをご覧ください。
検査の費用は保険適用外で、下記の料金がかかります。
①「ビトロスアンチ-SARS-CoV-2 IgG抗体検査試薬キット」のみ:6,000円(税込み)
①、②の両方:8,000円(税込み)
*別途、受診の状況に応じて診察代(目安として3割負担の初診の方で約850円、再診の方で約400円)がかかります。
詳細は下記リンクからご覧ください。