検診・健康診断の異常について ~生活習慣病篇~
- 高血圧
高血圧とは
高血圧の原因
高血圧の症状
高血圧の合併症
高血圧の治療 - 糖尿病
糖尿病とは
糖尿病の症状
糖尿病の検査・診断
糖尿病の合併症
糖尿病の治療 - 脂質異常症(高脂血症)
脂質異常症(高脂血症)とは
脂質異常症の原因
脂質異常症の症状
脂質異常症の合併症
脂質異常症の治療 - 高尿酸血症
高尿酸血症とは
高尿酸血症の合併症
高尿酸血症の治療
検診や健康診断で異常を指摘されたことはおありでしょうか?
症状がないため、ついつい放置してしまっていませんか?生活習慣病に関してはかなり病状が悪化しないと症状が出ないことが多いですが、生活習慣病を放置していると脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)や狭心症・心筋梗塞、慢性腎臓病など様々な合併症が起きる可能性が高くなります。
今回の院長コラムでは検診・健康診断でよくある異常について解説します。
あくまで目安ですので、必ず医療機関を受診してご相談なさってください。
高血圧
高血圧とは
文字通り血圧が高い状態が慢性的に続いている状態です。
高血圧の定義は
- 診察室血圧 140/90 mmHg 以上
- 家庭血圧 135/85 mmHg 以上
とされています。ただ、診察室血圧 130~139/80~89 mmHgも、120/80 mmHg未満と比べると脳心血管病の発症率が高く、将来的に高血圧になる可能性も高いことが報告されています。そのため、診察室血圧 130~139/80~89 mmHgは高値血圧と定義されており、診察室血圧 120/80 mmHg未満が正常血圧と定義されています。
日本における高血圧の患者数は約4300万人と推定されており、そのうち3100万人の方が管理不良であるとされています。
高血圧の原因
血圧が上がる原因には様々なものがあります。
生活習慣としては
- 塩分の摂りすぎ
- カリウム、カルシウム不足
- 肥満
- 運動不足
- ストレス
- 加齢
などが挙げられます。
元々高血圧になりやすい体質の方(親が高血圧であるなどの遺伝的な要因)に生活習慣などの影響が加わって高血圧になる場合が大半を占めますが、他の病気の影響で血圧が上がってしまうことがあります。そうしたものを、二次性高血圧といいます。
二次性高血圧の代表的なものとしては下記のものがあります。
①睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に呼吸が一時的に止まったり、弱くなったりすることを繰り返す病気です。睡眠の質が下がったり、体内の酸素濃度が下がったりすることで肉体的なストレスにさらされ、高血圧をきたします。
睡眠時無呼吸症候群の詳細については下記の院長コラムをご参照ください。
②原発性アルドステロン症
副腎という臓器からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌される病気です。アルドステロンにはナトリウムを体内に貯留させる作用があるため、アルドステロンが過剰になった状態では血圧が上昇します。
③腎血管性高血圧
若い女性や、中高年の方で急激な血圧上昇が起こったときに可能性があるのが腎血管性高血圧です。腎臓へ血液を送る血管が狭くなってしまい、血液をしっかり送り出すために血圧が高くなってしまいます。
高血圧の症状
肩凝りや頭重感、頭痛、めまいなどの症状が出る場合もありますが、よほどの高血圧でない限り、自覚症状はないことが多いです。
症状がないまま、病状が進行してしまうことが多いので注意が必要です。
高血圧の合併症
高血圧が続くと、動脈硬化(血管が固くなってしまうこと)や心臓への負担によって様々な合併症を起こる危険性があります。
①高血圧性心肥大
動脈硬化が進むと、心臓が全身に血液を送り出すのに、大きな力が必要になります。これに対応するため心臓の筋肉は発達して厚くなり、心臓全体が大きくなります。これが「心肥大」という状態です。
心肥大になると、心不全、不整脈、狭心症、心筋梗塞などの合併症の頻度が増加します。
②心不全
心臓や腎臓の働きが低下して血液の循環や不要な水分のコントロールがうまくいかなくなり、体に余分な水分がたまった状態になることです。
足や顔がむくんだり、息切れ・動悸などの症状がでます。
③脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
血圧が高いと動脈硬化が進み血管がもろくなります。また、血圧が高いと血管にかかる負担も大きくなり、脳出血やくも膜下出血を起こすおそれがあります。
また、動脈硬化が進むことで、脳や首の血管が細くなり、脳梗塞を起こす危険性があります。
いずれも障害が残ったり、生命に関わったりすることがある重篤な病気です。
④狭心症、心筋梗塞
心臓の筋肉に酸素や栄養を送っている血管(冠動脈)が詰まってしまうのが心筋梗塞、血管が狭くなり、心臓に十分な血液を送りこめなくなるのが狭心症です。
いずれも動脈硬化が大きな原因となります。特に心筋梗塞は不整脈や心不全など様々な合併症を引き起こしたり、生命に関わることがある重篤な病気です。
⑤腎硬化症
高血圧が原因で腎臓の血管に動脈硬化を起こし、腎臓の障害をもたらす病気です。徐々に腎機能が低下し、最終的には慢性腎不全に至ります。
高血圧の治療
高血圧の治療は生活習慣の改善が重要で、それでも血圧の目標値が達成できなければ薬物療法を行います。
目標値は下記のようになります。
*高血圧治療ガイドライン 2019 より
生活習慣の改善
①食事療法
高血圧の治療には減塩が重要です。1日の塩分摂取量を6g未満にしましょう。
また、肥満は血圧の上昇につながりますので、食べ過ぎにも注意が必要です。
アルコールの摂りすぎも血圧の上昇につながります。男性では1日にエタノールで20~30mL(おおよそ日本酒 1合、ビール 中瓶 1本、焼酎 半合、ウイスキー ダブル 1杯、ワイン 2杯に相当)、女性ではその半分の10~20mLに制限することが勧められます。
②運動療法
少し負担に感じる程度の負荷がかかる有酸素運動がお勧めされます。
ウォーキングであれば1日1万歩(1日30分)以上で、週に3~4日以上を目標にしましょう。
③その他
禁煙:喫煙は高血圧になる危険性が高くなるだけでなく、脳卒中や心筋梗塞などの発症の危険性を高めます。
減量:BMI〔体重 (kg) ÷ 身長 (m)2〕 25未満が目標になります。おおよそ1kgの減量で収縮期血圧・拡張期血圧も約1 mmHg低下すると言われています。
薬物療法
生活習慣を改善しても血圧の目標値が達成できなければ薬物療法を行います。
血圧を下げる薬には様々な種類があります。
代表的なものとしては
- Ca(カルシウム)拮抗薬
- アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)/ アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
- 利尿薬
- β(ベータ)遮断薬
が挙げられます。これらの中から患者様の状態や他の持病などを考慮して薬を選びます。高血圧がひどくなければ1種類だけでコントロールできますが、1種類だけでは血圧のコントロールが不良であれば複数の種類の薬が必要になります。
関連コラム
糖尿病
糖尿病とは
血液中の糖の値(血糖値)が慢性的に高くなる病気です。1型糖尿病と2型糖尿病に大きく分けられます。
1型糖尿病はインスリンという血糖を下げるホルモンを作る膵臓の細胞が障害されることで起こります。2型糖尿病では、食べ過ぎ・飲み過ぎや運動不足、ストレスなどにより膵臓の働きが弱ってインスリンが出にくくなったり、インスリンの働きを阻害する物質が体内にたまることによって発症します。遺伝的要素も大きく、家族に糖尿病患者がいる場合に発症する可能性が高いと言われています
1型糖尿病、2型糖尿病以外にも、薬による糖尿病や妊娠糖尿病などもあります。妊娠糖尿病は妊娠中に初めてわかった、まだ糖尿病には至っていない血糖の上昇をいいます。
糖尿病の症状
初期には症状がほとんどなく糖尿病になっていることに気がついていない方も多くいます。
悪化すると
- 喉が渇く、水をよく飲む
- 尿の回数が増える
- 体重が減る
- 疲れやすくなる
などといった症状が見られます。
重症の糖尿病の場合、糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群といった、意識障害をきたす重篤な病気を起こすことがあります。
また、糖尿病は様々な合併症を起こし、それによる色々な症状が出現する場合もあります。合併症については「糖尿病の合併症」の項目で解説します。
糖尿病の検査・診断
糖尿病の診断のためには、血液検査で血糖値やHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシーと読みます。過去1〜2ヵ月の血糖値の平均を反映します)の値を調べます。
糖尿病の診断基準は下記のようになります。
- 早朝空腹時の血糖値が126mg/dL以上
- 75グラム経口ブドウ糖負荷試験(75グラムのブドウ糖を溶かした水を飲んだ後に血糖値を測る検査)で2時間後の血糖値が200mg/dL以上
- 随時血糖値(食事や時間に関係なく測定した血糖値)が200mg/dL以上
- HbA1cが6.5%以上
1度の検査で1.〜3.のうちのいずれかと4.が同時に確認されれば、糖尿病と診断されます。
1.~4.のいずれか一つだけを認めた場合は「糖尿病型」と診断されます。別の日に検査を行って、再度「糖尿病型」であれば糖尿病と診断されます。ただし、HbA1cだけが繰り返し6.5以上なだけでは糖尿病とは診断できません。
また、1.~3.のいずれかに当てはまり、かつ以下のいずれかがあれば糖尿病と診断されます。
- 糖尿病の典型的な症状(のどの渇き、多飲、尿量が多い、体重減少)
- 確実な糖尿病性網膜症
糖尿病の合併症
糖尿病は様々な合併症を起こすことが知られています。
糖尿病の慢性合併症には細い血管にみられる合併症(細小血管症)と、太い血管にみられる合併症(大血管症)の2つがあります。
また、慢性合併症のほかに、極度のインスリン作用不足によって急激に起こる急性合併症もあります。
細小血管症
高血糖の状態が長期間続くと、体の中の細い血管が障害されて血流が悪くなり、とくに細い血管が集中している場所に合併症が起こります。
細小血管症としては
- 神経の障害:糖尿病性神経障害
- 目の障害:糖尿病性網膜症
- 腎臓の障害:糖尿病性腎症
があり、各々の最初の一文字をとって「しめじ」と、覚えられています。
糖尿病性神経障害
手足の神経に異常をきたし、足の先や裏、手の指に痛みやしびれといった感覚の異常があらわれる合併症です。痛みを感じにくくなっているため、ちょっとした足の傷や、やけどに気づかず、壊疽(えそ)になって足の切断が必要になる場合もあります。
また、自律神経に異常をきたした場合は立ちくらみや下痢、便秘、排尿障害、勃起障害などの症状が出現します。
糖尿病性網膜症
眼の網膜にある非常に細い血管が障害される合併症です。自覚症状がないことが多く、進行してしまうと失明に至ります。早期発見と進行予防・治療のために、症状がなくても定期的に眼科で検査をすることが望ましいです。
糖尿病性腎症
徐々に腎臓の機能が障害されていく合併症です。かなり進行しないと自覚症状が出現しないことが多く、定期的な尿検査や血液検査で腎臓の機能を調べることが重要です。糖尿病性腎症が進行すると人工透析が必要になる可能性があり、日本の人工透析の原因になった病気の1位は糖尿病性腎症です。
大血管症
高血糖の状態が続くと、太い血管では動脈硬化が進んでいきます。動脈硬化が進むと血管がつまり、臓器に必要な血液が流れなくなって、障害をきたします。
大血管症としては
- 脳梗塞
- 狭心症
- 心筋梗塞
- 末梢動脈疾患(PAD)
があります。
脳梗塞や心筋梗塞は命に関わることもある重篤な病気で、後遺症が残るおそれもあります。
末梢動脈疾患(PAD)とは足の血管に動脈硬化が起こって血管が細くなったり、詰まったりして、足に十分な血液が流れなくなることで起こるする病気です。歩行時に足がしびれる、痛い、冷たいなどの症状が現れます。また、神経障害があると足に傷ができても痛みがなく発見が遅れてしまい、潰瘍になりやすくなりますが、末梢動脈疾患があると潰瘍が治りにくくなり、壊疽(えそ)を起こすおそれがあります。足を切断が必要になることもあります。
その他の合併症
血糖コントロールがうまくいっていないと、上述した合併症の他にも歯周病が悪化しやすくなったり、感染症にかかりやすくなったりすることもあります。
糖尿病の治療
糖尿病の治療としては食事療法と運動療法、薬物療法があります。
食事療法
食事のとり方のコツ
食事療法を効果的にする食事のとり方のコツをご紹介します。ぜひ試してみてください。
- ゆっくりよくかんで食べる
- 朝食を抜いたりせずに、三食規則を正しく食べる
- 野菜などの食物繊維が多い食材を主食よりも先に食べる
- 夜遅くや、寝る前には食べない
1日のエネルギー摂取量の目安
1日のエネルギー摂取量の目安は下記のようになります。
◎1日のエネルギー摂取量=目標体重(kg)× エネルギー係数(kcal/kg)
◎目標体重の目安(kg)
- 65才未満:身長(m) × 身長(m) × 22
- 65~74才:身長(m) × 身長(m) × 22~25
- 75才以上:身長(m) × 身長(m) × 22~25
◎身体活動レベルと病態によるエネルギー係数(kcal/kg)
- 軽い労作(大部分が座位の静的活動):25~30
- 普通の労作(座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む):30~35
- 思い労作(力仕事、活発な運動習慣がある):35~
高齢者の方のフレイル予防では身体活動レベルより大きい係数に設定できます。また、肥満がある方で減量を目指す場合は、身体活動レベルよりも小さい係数に設定できます。目標体重と現体重の間に大きな差がある場合は、上記のエネルギー係数を参考に、柔軟に係数を設定します。
栄養摂取比率
各々の方の活動量や併発症の状態、年齢や食事の好みに応じて、柔軟に対処するのが一番になりますが、目安をご紹介します。
- 炭水化物:総エネルギー量の50~60%
- タンパク質:総エネルギー量の20%以下
- 脂質:総エネルギー量から炭水化物とタンパク質の割合を引いたもの
主食(ごはん、パン、めん類など)、良質なたんぱく質を含むおかず(魚類、大豆製品、卵、肉類など)、野菜、きのこ、海藻類、乳製品(牛乳、ヨーグルトなど)、果物など1日の中でいろいろな食品を組み合わせて摂取することでバランスのよい食事に近づきます。
「糖尿病食事療法のための食品交換表」を参考にしていただくとバランスのよい献立を作りやすくなるかもしれません。食品交換表では、私たちが日常食べている食べ物を、多く含まれている栄養素によって、6つの食品グループ(6つの表)と調味料に分けて、80kcal(1単位)のエネルギーを含む食品の重量が掲載されています。
減量について
肥満のある患者様では減量は大事な治療の一つになります。「1日のエネルギー摂取量の目安」で記載した目標体重を参考に目標を立てましょう。ただ、いきなり目標体重まで減らすのは大変だと思いますので、達成できそうな目標となる体重を決めて、それを達成できれば、また次の目標を立てるというようにする方が続けやすいかもしれません。最初の体重から5~10%減量するだけでも十分な効果があるとされていますので、少しずつでもいいので減量を続けていきましょう。
栄養指導について
当院は姫路市と連携し、糖尿病性腎臓病(糖尿病に合併する慢性腎臓病)の患者様の透析導入を防ぐための事業に参加しています。
姫路保険所と連携して、糖尿病性腎臓病の患者様へ栄養士から栄養指導を行うことが可能です。ご自宅への栄養士の派遣も可能となっています。希望される方は当院へお気軽にご相談ください。
運動療法
運動療法を行うことで、血糖値を下げる効果やインスリン抵抗性の改善(インスリンの効果が高まり、血糖値が下がりやすくなることです)といった効果が得られます。
運動療法は有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)を組み合わせるとよりよい効果が得られます。
有酸素運動
ウォーキング(速歩)・ジョギング・水泳・自転車などのできるだけ大きな筋を使用する運動で、全身運動になります。
運動療法の目標
- できれば毎日。少なくとも週に3~5回
- 各20~60分間。1週間の合計が150分以上
- 中等度の強度(ややきついぐらい)
たとえばウォーキングの場合、1回につき15~30分間で1日2回。1日の運動量として約1万歩程度が目安になります。
レジスタンス運動
腹筋、ダンベル、腕立て伏せ、スクワットなどのおもりや抵抗負荷に対して動作を行う運動になります。筋力トレーニングと考えると分かりやすいでしょうか。
レジスタンス運動の目標
- 週に2~3回
- 8~10種目のレジスタンス運動を、1種目につき10~15回を1セットとして、1~3セット
具体的な有酸素運動・筋力トレーニングについては下記のサイトをご参照ください
健康・体力づくり事業財団 健康・体力アップコーナー 運動してみよう!
運動療法は避けた方がいい場合もあるので注意が必要です。運動療法を始める前に主治医に相談しましょう。
運動療法を避けた方がいい、もしくはは制限した方がよい状況
- 血糖値が高いとき(空腹時血糖≧250mg/dL)
- 脱水がある時、ケトーシス(尿中ケトンが陽性)
- 感染症があるとき
- 自律神経障害が進んでいるとき
- 網膜症が進んでいるとき、眼底出血があるとき
- 腎臓の病気が進んでいるとき
- 足に進行した潰瘍、壊疽(えそ)があるとき
- 重い心臓病(心筋梗塞など)、肺の病気があるとき
- 骨、関節の病気をお持ちの方
*注:上記に当てはまる方でも、状態や時期によってできる運動がありますので主治医とよく相談してください。
薬物療法
糖尿病治療薬には様々な種類があります。大きく分けて、内服薬である経口血糖降下薬と注射薬に分けられます。
経口血糖降下薬
①インスリン抵抗性改善系
インスリン(血糖を下げるホルモンです)が効きにくくなっている状態の方で、インスリンが効きやすくしてくれる薬です。
- ビグアナイド薬:肝臓での糖の合成を抑える薬です
- チアゾリジン薬:筋肉や肝臓でのインスリンの働きを高める薬です
②インスリン分泌促進系
- DPP-4阻害薬:血糖が高い時にインスリン分泌を促進し、グルカゴン(血糖を上げるホルモンです)分泌を抑える薬です
- スルホニル尿素薬:インスリン分泌を促進する薬です
- 速攻型インスリン分泌促進薬:より速やかにインスリン分泌を促進する薬です
③糖吸収・排泄調節系
- α-グルコシダーゼ阻害薬:小腸からのブドウ糖の吸収を遅らせる薬です
- SGLT2阻害薬:尿からのブドウ糖の排泄を促進する薬です
また、最近GLP-1受容体作動薬という血糖が高い時にインスリン分泌を促進する薬の内服薬が日本でも発売になりました。
注射薬
- インスリン:インスリンとは、ひとの体の中でつくられるホルモンで、血糖を少なくする働きをもっています。インスリン製剤には超速攻型、速攻型、中間型、持効型など様々な種類があり、患者さんの状態に応じて使い分けます。
- GLP-1受容体作動薬:先ほど経口血糖降下薬の項でもご紹介した、血糖が高い時にインスリン分泌を促進する薬です。注射製剤としては1日1~2回注射するものや週に1回注射するものがあります。
脂質異常症(高脂血症)
脂質異常症(高脂血症)とは
血液中のコレステロールや中性脂肪などの脂質の代謝が正常でない状態のことを言います。以前はLDLコレステロール(悪玉コレステロール)値やトリグリセライド(中性脂肪)値が高い状態を高脂血症と呼んでいましたが、HDLコレステロール(善玉コレステロール)値が低い状態も同様に問題があるため、2007年からはこれら3つの状態を脂質異常症と呼ぶように改められました。
具体的な数値は下記の表のようになります。
脂質異常症は動脈硬化の原因となり、脳梗塞や狭心症・心筋梗塞といった病気を起こすおそれが高くなります。
脂質異常症の原因
脂質異常症の原因としては食生活や運動不足、喫煙、お酒の飲みすぎといった生活習慣の乱れ、肥満、ストレスなどがあります。また、遺伝的要因によるもの(家族性高コレステロール血症)もあり、遺伝性ではないタイプのものに比べてLDLコレステロール値が著しく高く、動脈硬化が進行しやすいことが知られています。他には甲状腺機能低下症や副腎皮質ホルモン分泌異常などのホルモンの分泌異常、糖尿病や腎臓病といった病気やステロイドや避妊薬などの薬によるものもあります。
脂質異常症の症状
脂質異常症は自覚症状がほぼありません。ほとんどの場合は健康診断などの血液検査で異常を指摘されて初めて判明します。症状がないまま、動脈硬化が進行してしまうので怖い点で、健康診断を定期的に受けていない方では、脳梗塞や心筋梗塞などを起こして初めてわかる場合もあります。
脂質異常症の合併症
脂質異常症は動脈硬化の原因となり、様々な合併症を起こします。狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などといった合併症が起こりえます。
また、中性脂肪が高い場合には急性膵炎を起こし、激しい腹痛や吐き気といった症状を起こすことがあります。
心筋梗塞や脳梗塞や急性膵炎は重症なものでは命に関わることがある重篤な病気です。また、心筋梗塞や脳梗塞では後遺症が残るおそれもあり、発症を予防することが非常に重要です。
脂質異常症の治療
脂質異常症の治療としては生活習慣の改善と薬物療法があります。
生活習慣の改善
まずは脂質異常症全般にお勧めされる生活習慣の改善をご紹介します。
①適正な体重
「身長(m)× 身長(m)× 22」が適正体重(kg)の目安になります。
例えば身長が160cmの方では1.6 × 1.6 × 22 = 56.32 となり、56 kgが目標体重の目安になります。
②適度な運動
少し負担に感じる程度の負荷がかかる有酸素運動がお勧めされます。
ウォーキングであれば1日1万歩(1日30分)以上で、週に3~4日以上を目標にしましょう。
③禁煙
喫煙はHDLコレステロールを低下させ、LDLコレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)を増加させてしまいます。また、喫煙はこれらの機序以外でも、動脈硬化の要因となるので注意が必要です。
ここからは各々の脂質異常症についてお勧めされる食事療法を紹介します。
高LDLコレステロール血症
血中LDLコレステロールを下げるためには下記のことを心がけましょう。
①飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロール摂取量の制限
飽和脂肪酸は、肉類の脂身や鶏肉の皮、バター、ラード、生クリームなどに多く含まれます。また、パームヤシやカカオの油脂、インスタントラーメンなど加工食品にも含まれています。これらの動物性脂肪や脂身の多い肉を控え、赤身肉や脂身をとり除いた肉を食べましょう。牛乳を低脂肪乳にするのもいいとされています。
トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングなどを使った食品や工場生産された揚げ物などに含まれています。揚げ物類やスナック菓子、パイ菓子、クッキー類などといった市販の洋菓子類の食べ過ぎには注意が必要です。
コレステロールは鶏卵やイクラやたらこなどの魚卵、内臓類(レバーやモツ)に多く含まれていますので、これらの食べ過ぎには注意しましょう。
②過不足のない不飽和脂肪酸摂取
1日に大さじ1杯程度の植物油を料理に使うといいです。ただし、オリーブ油、やし油などには多価不飽和脂肪酸はほとんど含まれていないので注意が必要です。
また、EPAやDHAといったn-3系多価不飽和脂肪酸は青魚類の脂肪に多く含まれおり、1日に魚を1切れ程度食べるように心がけましょう。
③食物繊維の積極的な摂取
通常の白米の代わりに精白度の低い胚芽米や麦飯、全粒粉のパン、蕎麦などを主食としましょう。また、野菜類や海藻、きのこ、こんにゃく、豆類、納豆にも食物繊維は多く含まれています。
低HDLコレステロール血症
HDLコレステロールの低値はトリグリセライド(中性脂肪)の高値と連動することが多いです。低HDLコレステロール血症の要因は、肥満や喫煙・運動不足が中心になりますので、減量や禁煙、運動療法が重要になります。トリグリセライド(中性脂肪)を下げる食事療法については次の高トリグリセライド血症の項をご覧ください。
高トリグリセライド血症
血中のトリグリセライド(中性脂肪)値が高い状態です。血中のトリグリセライド(中性脂肪)を下げるためには下記のことを心がけましょう。
①糖質の制限
「糖質」とは炭水化物から食物繊維を除いたものです。ご飯(お米)や菓子類を減らしましょう。また、甘い果物類も糖質を多く含むので、甘くない果物を1日に1個程度にしておきましょう。甘いソフトドリンクなどには糖質が多く含まれており、注意が必要です。
②アルコールの制限
トリグリセライド(中性脂肪)の数値や他の病気の有無によって、禁酒もしくは節酒が勧められます。節酒を勧められた場合は、男性の1日の飲酒量の目安は、日本酒なら1合、ビールなら400mL程度、ワインなら200mL程度までが目安になります。女性ではその半分から2/3程度が目安になります。
③n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取
n-3系多価不飽和脂肪酸は青魚類の脂肪に多く含まれおり、1日に魚を1切れ程度食べるように心がけましょう。
薬物療法
脂質異常症には様々な治療薬があります。主にコレステロールを下げる薬とトリグリセライド(中性脂肪)を下げる薬とに分けてご紹介します。なお、主にコレステロールを下げる薬でもトリグリセライド(中性脂肪)を下げたり、主にトリグリセライド(中性脂肪)を下げる薬でもコレステロールを下げる作用があったりもします。
主にコレステロールを下げる薬
- HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン系薬剤)
- 小腸コレステロール輸送体阻害剤
- 陰イオン交換樹脂製剤
- プロブコール
- PCSK9阻害薬
主にトリグリセライド(中性脂肪)を下げる薬
- フィブラート系薬剤
- 多価不飽和脂肪酸
- ニコチン酸誘導体
高尿酸血症
高尿酸血症とは
高尿酸血症とは血液検査での「 尿酸値 > 7.0mg/dL 」の状態です。
高尿酸血症の状態が長く続くと、痛風を起こしたり、腎障害をきたしたりします。また、生活習慣病のお持ちの方が、高尿酸血症も合併していると、動脈硬化がより進行しやすくなり心筋梗塞や脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)などを起こす危険性が高まります。
高尿酸血症の合併症
高尿酸血症の合併症としては痛風が一番有名ですが、他にも下記のような合併症をきたします。
- 痛風:尿酸の結晶が関節に沈着することで起きる関節炎で、手足の関節に激痛を伴う腫れや発赤をきたします。
- 腎障害(痛風腎):尿酸の結晶が腎臓に沈着すると腎臓の機能が低下します。腎障害が進むと、腎不全となり、透析が必要になることもあります
- 痛風結節:尿酸の結晶が皮膚の下の組織に沈着するとこぶができます。肘や手の甲、耳たぶなどにできることが多いです。
- 尿路結石:尿が酸性になって、尿中の尿酸が溶けにくくなり、結石ができることがあります。
また、生活習慣病のお持ちの方が、高尿酸血症も合併していると、動脈硬化がより進行しやすくなり心筋梗塞や脳卒中などを起こす危険性が高まります。
高尿酸血症の治療
他の生活習慣病と同じく生活習慣の改善が重要になります。
- 摂取カロリーの抑制および肥満の改善
- プリン体摂取の制限
- 節酒
- 適度な有酸素運動
- 十分な水分摂取
- 上手なストレスの発散
また、下記のような方では高尿酸血症の薬物療法が勧められています。
- 痛風発作を起こしたことがある、または痛風結節がある方
- 尿酸値が9.0mg/dL以上の方
- 尿酸値が8.0mg/dL以上で下記の合併症がある方
腎障害、尿路結石、高血圧、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、糖尿病、メタボリックシンドロームなど
尿酸値を下げる薬には下記の2つのタイプがあります。
- 尿酸生成抑制薬:尿酸が体の中で作られるのを抑える薬
- 尿酸排泄促進薬:尿酸を体の外へ出しやすくする薬
血液中の尿酸の濃度が急激に下がると、痛風発作が起きてしまうことがあります。尿酸値を下げる薬を使用する場合は発作を防ぐために、ゆっくりと尿酸値を減らしていきます。
尿酸値の目標値は6.0mg/dL以下です。一度6.0mg/dL以下になればいいのではなく、6.0mg/dL以下を維持することが大事になるので、定期的な検査と治療の継続が重要です。
高尿酸血症の詳細については下記の院長コラムをご参照ください。
本コラムは検診・健康診断の異常についてご理解いただくのにお役立ちできたでしょうか。生活習慣病は症状が出ないことが多いため、検診や健康診断で指摘された際に、きちんと精査をして治療を行うことが重要です。
姫路市で生活習慣病の検査や治療をご希望の方はお気軽に書写西村内科にご相談ください。